今月の一作品

2005年1月

壷

「壷」
 ニルマニ・デーヴィー
縦センチ×横センチ

*絵をクリックすると拡大図がご覧頂けます*

 今は存在しない壺。物質としては存在しているが、形はとどめていない。写真にあるこの壺はニルマニが娘と孫と共に来日して(4ヶ月ほどだったと思うが)製作した作品の中で、最も優れたもの。
 今回の地震で、飛び散ることなく、細かく割れた。展示してあったその場所の床に力が抜けたように破片となって着地している。どのような力が加われば、このような割れ方になるのか、想像しにくい。仮復興のオープン(二月を予定していたが豪雪や水道問題でまだ見通しがつかない状態)で、壊れた壺をひとつぐらいそのままにして展示したらという発想が、スタッフから聞かされた。新聞に載った秒単位の振動のグラフを見ていると、このような壊れ方になるのだなと思った。
 マニプール州インパールの片田舎に住むニルマニの村は代々女性が陶工をしていた。轆轤は使わないで、大きなものは叩きながら仕上げていく。日本にも古来あった方法。彼らは納豆という名の木の葉で大豆を包み、納豆を作る。照葉樹林文化の範囲に入るのだろう。
 中国の南を起源とする、彼らの起源神話がある。焼き方は大小の素焼きの造形物を一カ所に集め、それに藁をかけ、麻布を被せ縫う。その上に泥を塗り、底の方から火を入れる。藁の煙が作品に色を与え、うまくいったものは銀色となる。茶室にも合う。この作品はやがてこの美術館から離れ、どこかに行く運命。ちなみにニルマニ・デーヴィーは数々の賞を取っている。インド民族アートの5人の内の1人でもある。(国立手工芸博物館・元ジェーン館長の著書「Other Masters Five Contemporary Folk and Tribal Artists Of India」で民族アートでは初めて個人がそれなりな出版物として紹介された。)





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